歌い手・吉永寛子、観客・浦山実の「会いたかった」『だけ』公演も終わり、全力を出し切った寛子に実は拍手を送る。
そして、寛子の口から浦川みのりへの想い、そして浦山実への想いを口にする。
「私にとっての『浦川みのり』はね、いつだってみんなの先頭に立ってて、どんな壁にも悠然と立ち向かって、一見無鉄砲なところもあるけど、実(じつ)は誰よりもファンやメンバーの事を考えていて、ステージに立つ喜びを誰より知ってる。
研究生の時も、GEKOKU嬢の時も、全兼任の時だってずっと私の『憧れ』。
それが『みのり』、『私の大好きな浦川みのり』」
一旦言葉を切ろう。
みのりの言葉で手紙で想いを綴っている時、寛子の事にも触れている。それこそみのりが寛子に公開ビンタを張ったのを発端に冷戦状態に陥った全兼任時代の事ですら、みのりは寛子の事をちゃんと見ていて、ちゃんと評価をしていたのである。
そしてその上で、『私の大好きな、吉永寛子です。』と締めていた。
つまりみのりと寛子は、冷戦状態の全兼任時代も含め、「みのりは寛子を導き、寛子はみのりの作った道を信じて突き進む」関係を4年にわたって作り、それがそのまま12期の相棒としてだけでなく、AKBグループ屈指の信頼関係につながっていたのであった。
その極例がNMB特番であろう。たまたま寛子がマジックで言葉を書き、たまたまみのりが粋がってAKBに宣戦布告をした時に「相手が違う」とばかりにみのりの頬に手を押し付けて自分の方に向かせた、たったこれだけの事で、みのりは寛子がマジックで書いた言葉が自分の頬に残っていることに気付いて移動ルートを意図的に変えていき、その動きに気付いた寛子がマジックの字が薄れていることに気付いて自分も移動ルートを修正、最終的には難波の町に8のサイリウムが光を放つ演出を作っていったのだが、冷戦時代、それこそ打ち合わせ一切なしで当たり前にこれだけの事が出来てしまうのが、みのりと寛子がお互いをいい意味でちゃんと見ている証拠であるのではないか。
話を戻そう。
「私の中に『みのり』はいるから。きっとみんなの中にも…
あなたは悪い人じゃない、それはみんな知ってる…
みのりが女の子じゃないって分かることなんかより、みのりとこんな別れ方する方が100万倍辛いよ…」
前にも書いたが、寛子はもうみのりから卒業して一人で頑張っていかなければいけない。
でも寛子の前に開拓者としての『浦川みのり』の残像は残っているし、『みのり』は自分がAKBにいる限り自分の基準になる。
だからこそ、寛子は『浦川みのり』の後姿を見ながら、ちゃんとした形でみのりと別れたいし、その想いはみんな同じ。だから雪の街をみんな飛び出していった、それくらいみのりを信じているのだ、と言いたかったのだろう。
一方、次には浦山実への思いを口にする。
「私、嬉しかった…
あの時、あなたは私の夢を笑わないで聞いてくれた。アイドルになりたいって夢を笑わないでいてくれた。
だから思えたんだよ、こんな私でもアイドル目指していいんだ、って。見果てぬ夢を見続けていいんだって。」
実にとっては些細なことだったかもしれない。でもそれが寛子にとってはすごく大事なことだったのだ。
だから髪を切ってAKBに入りたいという覚悟を示し、それを見た実は女装をしてオーディションに紛れ込んで、陰ながら寛子を応援しようと決めた、それが実が『浦川みのり』になった動機であった。
「だから、だからさ、自分の夢にくらいは素直になりなよ」
実には夢があった。野球選手になるという夢が。
でも肘を壊して野球を諦めた後、寛子に出会い、寛子がAKBに入りたいと夢を持っていることを知って、寛子をAKBに合格させたいという夢を持ち、そして合格したら『浦川みのり』を通して、寛子をAKBのセンターにしたいという夢を持つことができるようになった。
と同時に、大勢の人と触れ合うことで、本気で『ステージに立ちたい』と思うようになった自分も見つけた。寛子はそこを突いたのだ。
一瞬の静寂。しかしその中でみのりの心に火が入った。
「メイク落ちちゃった」
実の一言に実の心境の変化を感じ、「またすればいいじゃん」と答える寛子。
「ウィッグもボサボサ」「いつもそんなに気にしない癖に」
寛子との何気ない会話の中で実は少しずつ自分の想いを口にしようとする「勇気」を出し始める。
「いいのかな、(ステージに)立っても?」と聞かれた寛子は目頭を押さえながら首を縦に振り、「ごめん、吉永」と聞かれると全力で首を左右に振る寛子。
「迷惑かけるかもしれないけど…」
実はもう迷わなくなっていた。自分が男だと分かっていながら、AKBのメンバーはみのりを探してくれた。寛子はみのりが実だと分かっていながら、実にもう一度ステージに立とうと誘ってくれた。
それなら、最後は自分の想いをきちんと果たさなければ。
「オレ、ステージに立ちたい!」そう叫びながら実はAKB劇場に戻っていった。
一方、なかなかみのりの卒業公演が始まらないことに業を煮やした客にはスタッフに遅れている理由を問い詰める客も出始めていた。
そしてタイムリミットの30分が迫ろうとしていた。
以前1万円公演の最終日の直前に寛子がダウンし、みのりがそれを見舞いに寛子の運ばれた病院に行ってしまった時は、たまたまみのりが出るところに出くわした選抜メンバーが前座ガールズとして場をつないだが、今AKBメンバーは全員みのりを探しに出払っていって、場をつなぐことができないでいた。
タイムリミットの30分が過ぎ、戸賀崎支配人が何とか自分でその場をつなぐしかないと覚悟を決めるが、その時幕が開く。
実(じつ)はたまたまみのりの卒業公演だからと、寛子が気を利かせて「チームのぞみ」の一員であった有栖莉空を招待していたのだが、異変を察知した莉空がサクラに声をかけて独断で前座ガールズをやると決めていたのだ。
言うまでもなく莉空は宝春に飲酒喫煙パーティーの現場を抜かれ、解雇された立場であり、本来ステージに立てないのだが、もともとそのスキャンダル自体が寛子の手つなぎスキャンダルを隠ぺいするための「やらせ」であり、莉空自体は飲酒も喫煙もしていないことはみのりを通してAKBのメンバーには知れ渡っており、2か月遅れの生誕祭という形で莉空とAKBメンバーは和解しているし、自分のスキャンダルが抜かれ、それが原因で莉空を潰してしまった事を知って生誕祭に参加できずに泣いていた寛子も、自分のスキャンダルをあえて公表するという形で莉空を救おうとしていた。
非難轟々の中、あえて莉空はみのりが戻ってくることを信じてAKBのステージに立つ事に決めたのだ。
恐らく次回は非難轟々の中ステージを行う莉空のフォローに寛子と「実」がステージに乱入、そこで寛子のスキャンダルが再燃し、それを鎮めるために実は「浦川みのり」が自分の女装であったと告白することになる、という展開を感じているのですけど…