雪の降る中、カツラを脱いで涙を流しながら腰かける浦山実。
そこに息せき切って吉永寛子が現れる。
そして寛子は「みのり！」と声をかけ、実も「ひろこ…」と応える。
前回はそこで終わっているのだが、「ひろこ」と応えた直後、みのり用のカツラが脇に置かれていることに気づき、実は愕然とする。
とうとう「浦川みのり」が実の女装だと寛子にばれた、実にとってはその瞬間であった。
しかしそれにしては寛子は全く驚いた表情をせず、逆にカツラを脱いだ実に「みのり」と声をかけたことを訝しむ。
寛子がそれに答えずに無理やり実の手を引っ張って劇場に戻ろうとしたので、実はその手を振り払って「公演には出られない、本当にごめん」と寛子に謝る。
その実に寛子は、「宝春のことならもう知ってる。欠席しても宝春が掲載をやめるなんて思えない」と言った上で、「みんなもそう言ってた」そう付け加えた。
この言葉で実は、寛子だけでなく、ＡＫＢのメンバーもみんな「浦川みのり」が実の女装だったことを知っていることにビックリする。
寛子は続けて、
「みんな一生懸命探しているよ、あなたのこと… みのりが男であることを知った上で、それでも『浦川みのり』は悪い人じゃないと信じて、みのりをステージに立たせたくって今もこの雪の中で走り回ってる」
そう実に言った上で、
「立ちたくないの、ステージ！『卒業公演をみんなに見てもらいたい』そう思わないの？」
そう迫る。
しかし脅迫を受けている実は、
「だからこそもう、これ以上ＡＫＢに迷惑をかけたくない。オレがステージに立ったら100％嘘が世間にバレちゃう！ それでグループ全体がファンに信用してもらえなくなることもある。それだけはできない。オレのせいでＡＫＢが壊れたら、それこそもうどうしたらいいのか…」
そういってステージに立つことを拒否する。
どうしたら実を説得したらいいか考えた寛子は突然、歌を歌い始める。
曲は「会いたかった」
突然寛子が歌いだしたのに困惑する実は、寛子が歌っているのを一旦は止めるが、寛子は歌を止めさせた実に、
「ねぇ、私の声は震えてる？ あの時みたいに怯えてる？」
そう聞いた。
その瞬間、実も思い出す。「会いたかった」は寛子が12期オーディションで歌った曲、つまり寛子のＡＫＢ生活で「最初に」歌った曲なのだ。
そして実に寛子はこう言い放つ。
あなたのせいでＡＫＢが壊れる？ 誰の心配してるの？
あなたの嘘がバレたってＡＫＢは大丈夫!! 何度でも立ち上がる、劇場に立つ、一人ファンが減っても二人ファンにするまで頑張る！
何が『ＡＫＢは大丈夫』よ！ あの手紙も嘘ばっかりじゃない！
未来に怯えてるのはどっちの方？ 自信がないのはあなたじゃない！
それでも舞台に立ちたくないならどっか行っちゃえ！ そんな人アイドルなんかじゃない！
ＡＫＢは強い!! 頼れる先輩もいる、立派な後輩もいる！
『私』だっているから…
そして寛子は実の前で再び「会いたかった」を歌い始める。実は寛子の歌を涙を流して聴きながら、一つの「決意」を固めようとしていた。
先ほど書いたとおり、「会いたかった」は寛子がＡＫＢ生活で初めて歌った曲である。と同時に、ＡＫＢにとってもメジャーデビューの１曲目でもある。
ここで歌詞の１番を転載することをお許しいただきたい。
会いたかった
会いたかった
会いたかった
Yes!
会いたかった
会いたかった
会いたかった
Yes!
君に・・・
自転車 全力で ペダル漕ぎながら坂を登る
風に膨らんでるシャツも 今はもどかしい
やっと気づいた本当の気持ち
正直に行くんだ
たったひとつこの道を走れ!
好きならば好きだと言おう
誤魔化さず素直になろう
好きならば好きだと言おう
胸の内さらけ出そうよ
会いたかった
会いたかった
会いたかった
Yes!
会いたかった
会いたかった
会いたかった
Yes!
君に・・・
この曲のセンターは当時絶対的なエースと言われた前田敦子で、４年前オーディションで寛子が歌った時には歌うことに必死で歌詞の意味なんて考えていなかったに違いないのだろうが、４年経ち、寛子もみのりとのＷセンターでセンターを初体験した後、ソロセンターもできるようになるまでに実力がついてきている。まさに前田敦子を目指していた寛子も前田敦子に匹敵するほどの存在に成長していたのである。
そして、今まではみのり＝実の力を借りてセンターを務めるまでに成長した自分も、とうとう『浦川みのり』の存在から卒業してひとりでＡＫＢを背負う立場にならなければいけない、そう感じたのだと思う。
だからこそ、実しか観客のいないステージで、実に『みのりとの決別の覚悟』を示すために、４年前ボロボロだった「会いたかった」を歌って、『みのりからの卒業』を誓ったのだと思う。
と同時に、この曲の歌詞にある次の言葉を使って、実に決意を促していたようにも感じた。
「正直に行くんだ」「誤魔化さず素直になろう」「胸の内さらけ出そうよ」
その言葉は、１年半前寛子が実とのスキャンダルをきっかけに妹分の有栖莉空を潰したことに苦しんだ時、自分が示した指針でもあった。
スキャンダルと言っても、Kurokamiに恋心を持った寛子がKurokamiが実だと分かったことで思わず実の手を握ってしまっただけのことで、その後実は寛子を抱きしめたりしないで、逆にこれはまずいと自分から逃げ出しているのだから、本来スキャンダルといっても過度に問題視されるようなことではないはずであったのだ。
だから正直にありのままを告白して、みんなの審判を仰ごう、ちゃんとありのままを語れば、ファンの人だって納得してくれる、そう言って自分からスキャンダルをバラし、ありのままを告白したのだった。
そしてその決意を語ったのが、他ならぬ寛子が歌い、実が泣きながら聴いている「その場所」でもあったのだ。
そしてその歌の裏で、寛子はこう語りかけているようにも聞こえるのだ。
もちろん浦川みのりが男だと分かることはＡＫＢ史上最大のスキャンダルであると思う。
もしかしたらＡＫＢに逆風が吹くかもしれない。
でも私たちはみのりが男だと分かった上で、みのりを卒業公演に出演させようと決めた。
私たちは「ＡＫＢ12期生」としての『浦川みのり』を承認するつもり。
それだけのことを実くんは『浦川みのり』としてやってきた。それはファンの人も見ているはず。
だから、実くんも安心してありのままを告白しようよ。
もちろん激しい逆風は吹く。でも実くんをＡＫＢは必死で守る。
そして４年間『浦川みのり』と一緒にいた私も、絶対に実くんを守るから。
その姿勢を見れば、ファンの人だって分かってくれるよ。
この「卒業」公演で、寛子は『浦川みのり』からの「卒業」への覚悟を決めた。そして次第に実もＡＫＢからの卒業とともに『浦川みのり』の存在からの卒業への覚悟を決めようとしていた。
でも大丈夫じゃないかな、最後は秋元康が何とかするはずだとは思うけどねw
